Classicヨット体験
英国製ヨットShrimper19に乗ってClassicヨットを体験しませんか?
普段ヨットに乗られている方でもShrimper19のようなガフリグ艇には、馴染みが少ないのではないでしょうか?日本オーピーヨット株式会社では、ガイド兼船長付きでShrimper19でのセーリングを体験していただけます。
Gaff rigのこと(続き) [ヨットの話題]
今日は、Falmouth(ファルマス)の少し北にあるRestronguet(レストロンゲット)Creek(クリーク:入り江とか小湾の意味)で、レースがありました。
こちらはShrimper19'。7艇ほどレースに出ていました。
下の地図では、水深までは伝わりませんが、この入り江は本当に狭い、浅い。
そして極めつけは湾の中央部に満潮時のみ水面下に隠れる浅瀬があります。
そして岸の近くは深いところと浅いところがあり、地図上部の堤防に設営されたレース運営本部および観覧席から放送で「そのまま行くと乗り上げるから、ジャイブするように」とかアドバイスをくれるのですが、それでも目撃しただけで、5艇は浅瀬(砂)に乗り上げていました。
このレースは、満潮になる1時間と少し前から始まりますので、スタート前に乗り上げたとしても、船の方向を深いほうに向けて少し待っていれば、無事に脱出出来ます。
今日は、前回紹介しましたFalmouthで一番美しいWorking boatといわれるStellaにお邪魔しましたので、彼女の写真を紹介しつつ、前回のつづきを。
写真はクリックで拡大します。
木目のラブレールとトランサムがなんとも上品です。
コクピットには何もありません。
リギン屋さんのモーティーがメンバーですからロープや艤装品はどれも完璧です。
ジブセール用のシートは距離があるので、微風時にシートの重さでセールシェイプが崩れないようにテーパー加工が施されています。
船体長の半分くらい有りそうなバウスプリットは、毎年ニスを塗り替えますのでピカピカです。
トップスルは赤と黒の縞々です。
トップセールの話がでたところで本題です。
ガフリグのお話。
ガフリグ、ガフリグと言いますが、馴染が無い人にはさっぱりですね。
まず最初にガフというのは、四角形のメインセールの上辺を支える棒のことです。
私見ですが、その昔現在のようにアルミニウムやカーボンファイバーのような材料が無く、木材が唯一の材料であった頃、長いマストというのは、いろいろと問題があったように思います。
たとえば、つなぎ目のない長いマストを作るには、コスト面や十分な強度を出すためにどうしても重量が大きくなってしまいます。また、現在のように艤装品も豊富では無いですから、メインセールのラフをマストに沿わせるには、下の写真のようにマストをぐるっと取り囲むようなシートが必要で、その為に三角帆のようにマストの先端までセールを揚げるためにはスプレッダーなどは設置できません。それによってまたマストに必要な強度は増えてしまいます。
そういった理由で、短いマストでセール面積を大きくするために、このガフが発明されたのではないでしょうか。
次にその操作ですが、一般的な三角帆と異なり、ガフリグはメインセールを揚げるために通常2本のハリヤードを操作する必要があります。
The Gaff Rig Handbook by John Leather
ひとつはガフの根元(throat:スロート)を持ち上げるスロートハリヤード、もうひとつはガフを跳ね上げる為のピークハリヤードです。
ガフ自体に重さが有りますので、図のように通常どちらもテークルが組まれています。
そしてこのピークハリヤードにはセール面積(ガフのサイズ)によって、下の図のようにいろいろなアレンジがあります。
さて、スロートハリヤードとピークハリヤードですが、これらはただセールをあげる為だけに使われるのではなく、セールトリムにも使われます。
三角帆では、カニンガム(ダウンホール)でラフのテンションを調整し、最大キャンバー位置を調整しますが、ガフメインではスロートハリヤードがその役目を果たします。
そして、ピークハリヤードはリーチのテンションを調整出来ます。また、ピークハリヤードのアレンジによっては、ガフの曲がり具合を調整することで、微妙にシェイプをコントロールすることが出来ます。
基本的な理論は三角帆と同じで、風が強くなるほどセールをフラットに、そして最大キャンバー位置を前方に移動させパワーを減らしてやります。そして、もっとパワーが欲しいときもしくはリーチングではセールに深みをもたせます。
これをガフメインに応用すると風が強くなるほど、スロートハリヤードにテンションをかけ、リーチングでは両方のハリヤードを緩めてやるのが良いということになります。
本日お邪魔したStellaは、上の図でいうとeのものに近いのですが、独立したピークハリヤードが2本ありそれによってガフのベンド具合を調整でき、メインセールのシェイプをより微妙にコントロールできるようになっていました。
まぁ結構面倒なわけですが、これをきちんと行うのと行わないのでははっきりと差が現れます。
少しの冒険心と探究心をもって海に出ることこそセーリングの醍醐味と思います。その意味でガフリグというのは、自分にとってとても魅力のあるものに感じます。
8月に日本に到着するCornish Crabber 24'はガフリグでトップスルも装備しています。仕事を忘れてセーリングを楽しんでしまいそうです。
航祐
おまけ
ガフリグのラジコンヨット。V32というクラスだそうです。
スター級もその昔はガフリグでした。
The best yacht of the day
シェアラインは割とストレートですが、低い乾舷とトランサムのレーキ具合がとてもそそるものがあります。また、トップスルの柄もこだわりを感じます。
こんな小さなヨットまでガフリグです。
統計を取ったわけではありませんが、Falmouthでセーリングしているヨットは、実はガフリグの方が多かったりして。。。
Falmouth working boat とかGaff rigについて [ヨットの話題]
今週末、私が住む街Falmouth(ファルマス)では、Falmouth Working Boat Championshipが開催されておりました。
詳しくは、Falmouthの情報サイト「the Packet」へ(クリックで移動)
金曜土曜と用事があり日曜日こそは、どこかのボートに乗せてもらおうと期待していたのですが、朝起きてみると残念なことに凪。。。
こんな日にちょっと太目の自分を乗せてくれるところは無いだろうと諦め、ハウスメイト二人にカメラを託し、自分は岡の上から指をくわえて眺める。そんなちょっと切ない午後を過ごしました。
さて、彼らが帰ってきて写真をチェックしてみると。。。。
まぁ、良いのですが。。。
彼らが乗っていた艇は、Falmouthいや世界で一番美しい(ローカルなクラスですから)と言われるFalmouth working boat(ファルマス・ワーキングボート)その名も「Stella(ステラ)」。
もっと自艇の写真を取って欲しかったのですが、レースに夢中でそんな暇は無かったということで諦めましょう。
左からハウスメイトのケリー、リギン屋のモーティー(ちなみに本名はピーター)、ヘルムの人は存じ上げません。右のメガネの彼がBoat bitchと呼ばれているバッシャー(なんでも叩いて壊す:バッシュする人という意味。本名はベンジャミン)です。
あともう一人は後ほど出てきます。
ワーキングボートはもともと牡蠣を獲る漁船として発展してきたヨットなもので、ご覧のとおりコクピットにはベンチもありません。
しかもレース中はヘルムスマンの視界を確保するため、このような姿勢に。
海面とフリートの状況を常に見ていたい自分としては些か不満なのですが、それがこの艇のスタイルですから仕方ありません。
この写真で少し見えていますが、無骨な艇が多いこのクラスでチークデッキを施しているのはこの艇くらいでしょう。
チークデッキですが、この狭いサイドデッキを立って移動することはほとんど無い(船への乗り降りくらい)ですし、フォアデッキもランニング時のウィスカーポールを支えておく↓くらいなんです。
あ、彼がもう一人のハウスメイト、エディー(本名はジェームス)です。
彼は、つい最近までインド、ネパールを周りヒマラヤをトレッキングしてきたばかりなので、格好が少し中東っぽいですが、イギリス人いや彼が言うにはイギリス人ではなくウェリッシュ(イギリスの一部の地方ウェールズの人)だそうです。しかし、インドやネパールでは「それどこの国?」と聞かれ少し凹んで帰ってきました。
話がそれましたが、そろそろ本題に。
私はガフリグがとても好きでして、なぜかとても心惹かれるものを感じます。
もちろんセールにまつわる流体力学を勉強しましたので、バミューダンのようなアスペクト比(縦横比)の高いセールの方が流体力学的に「効率」は良いのは理解しています。
しかし、人々がヨットに求めるものというのは多様であり、またその用途や限界もさまざまです。
以前のエントリー「ガフカッターとバミューダン」でも話題にしましたが、ガフリグにはヨットの種類やセーリング角度によってそのすばらしい利点が活きてきます。
たとえば、
以前紹介したこのグラフ(少々難解)ですが、
"Sailing Theory and Prctice" C A Marchajより
"Sailing Theory and Prctice" C A Marchajより
まずはこのグラフの見方のおさらいから。
1、縦軸はセールが発生する揚力係数、横軸は抵抗係数。
補足:ここで係数というのは、面積辺りの無単位係数としてあらわしています。これによって面積が異なるセールを効率の意味で比べることが出来る。
2、グラフの各ライン上の角度αは、セール(ブームの中心線)と見かけの風がなす角です。たとえば、あるヨットが見かけの風に対して、35度でセーリングしているとします。そしてαが10度だとすると、進行方向に対してのブームの角度は25度ということになります。
3、そして、今グラフの原点に描かれているヨットと原点から各ラインのα=10度に向かって伸びている矢印線に注目してください。この矢印線は、セールが発生する揚力の大きさとヨットの進行方向に対する角度を表しています。そして、この矢印は二つの方向に分解することが出来て、ひとつはヨットの進行方向に対する力、つまり推進力にもうひとつは、進行方向に対して垂直、つまりヨットをヒールさせる力をあらわしていると言えます。
ここまでで分かったことは、たとえば、図の通りにヨットがセーリングしているとすると、α=10度のAR=6とAR=1/3のポイントを比べてみると、前者のほうが推進力もヒールさせる力も大きいことが分かります。
4、そして次に個々のラインを見ていきましょう。まず結論から。ここで何が分かるかというと、それぞれのアスペクト比での最適なα、つまりトリムアングルが分かります。AR=3のセールでα=15度と10度と5度のポイントを比べて見てください。それぞれ前述の方法で、推進力とヒールさせる力に分けると、5度のときヒールさせる力は最小で15度がもっともヒールさせる力が大きいですね。また、推進力はというと、5度の時が一番小さいことは自明ですが、10度と15度では後者の方がほんのわずかに高い推進力がありそうですが、あまり差が無いように見えます。つまり、そのときの風の強さによってヒールさせる力を受けれるようなら、ブームを沢山引き込めば良いということです。
さて、今まではヨットの進行方向がクローズホールドの場合を見てきましたが、ヨットが見かけの風に対してアビームの場合はどうでしょうか。今度はAR=6とわれらがガフリグAR=1を比べて見ましょう。不器用な図で申し訳ありませんが、ちょっと書き込んでみました。
基本的な見方は同じですが、ヨットの進行方向が上向き(見かけの風に対して90°)なのに注意してください。
さて、この場合に前述の二つのセールの最適なαを探すとそれぞれ15度と38度になることが分かります。そして、それぞれの推進力を比べてみますと、われらがガフリグの方が20%近く大きい事がわかります。(そのかわりヒールさせる力は4倍以上ですが。)
つまり、ガフリグはバミューダンリグと比べて、より重たいヨットを同じスピードで走らせる事が出来ます。(もちろん、いくつかの仮定の下ですが。ここではややこしくなるので、またの機会に。)
すばらしいですね。
Falmouth working boatのように、牡蠣とり(底引き)船 には、ぴったりなわけですね。
また、それだけでなく色々装備をつんで排水量の大きなクルージングヨットの場合でも、実はガフリグの方があっているという訳です。
しかし、ガフリグはバミューダンと比べて扱いに慣れていないとちょっと手が出にくいですね。そこで、本当はこのエントリーでガフリグの各部位の説明やトリムについて、お話したかったのですが、長くなってしまいましたので、続きは次回とさせてください。
航祐